「サムライ」に選ばれた4人の大学生

 去る2月26日、関西大学の金丸夢斗(3年)が、三菱重工Eastとのオープン戦に先発登板し、予定されていた2イニングをパーフェクトに封じ込んだ。最速153キロを誇る好左腕は今秋ドラフト会議の1位指名有力候補でもある。

「小気味よい投球テンポと、直球の威力もあります。この日はカーブを意識して使っている印象を受けました。緩急を自ら課題としていたのでしょう」(在京球団スカウト)

 その発奮材料となったのは、3月6〜7日に行われる欧州代表との強化試合に選ばれたからだろう。

 野球日本代表・侍ジャパンの井端弘和監督(48)は、この強化試合2戦を迎えるにあたり、4人の大学生を選んでいる。金丸のほかに投手では愛工大・中村優斗(3年)、内野手の宗山塁(3年=明大)、外野手の西川史礁(3年=青学大)だ。

「スカウトからすれば、お目当ての選手たちがプロ選手たちといっしょにプレーするんですから、こんなに有り難い機会はありません。宗山は2月29日の試合で右肩裏に死球を受けたので出場は微妙ですが、この4人に関しては『即戦力』という高評価は変わりませんが、プロ選手とプレーすれば新たな一面も見えてくるはずです」(前出・同)

 もちろん、井端監督が大学生を出場メンバーの28人のなかに加えたのは、NPBスカウトのためではない。

「井端監督は2022年にU-12の指揮官に就任したころから、プロとアマの垣根を取り払うプランを温めていたようです。昨年、代表監督への就任要請をした段階で、プロアマ混合チームのビジョンを語っていました」(NPB関係者)

 26年開催のWBC、28年のロサンゼルス五輪で主力選手に、そしてプロ選手といっしょに国際試合を経験することで、さらに成長してほしいという思いが強いのだという。

「海外の代表チームとの試合だと、対戦するピッチャーのほとんどが初顔合わせになる。選手にすれば、プロ選手の配球の読み方とか、きわどい球をファールにして三振を防ぐ技術などを学ぶ絶好の機会になると思います。逆に、年齢の近いプロ選手たちは『学生に負けられない』との思いも強く持ってくれるはずです」(前出・同)

 金丸が好投した26日。同学年でプロ4年目を迎えるオリックスの山下舜平大(21)が休日返上での投球練習に汗を流していた。練習開始直後は「キャッチボール程度」と言っていたのだが、投げているうちに“火がついてしまった”のだろう。前日のブルペン投球にも匹敵する気迫の入ったボールを投げこんでいた。

 山下はオーストラリア戦での先発登板が“内定”している。この気迫も、プロアマ混合チームの効果だろう。

巨人選手は一人もいない

 今回の侍ジャパンに選ばれたメンバーを見てみると、昨季WBCに出場したメンバーはオリックス・宮城大弥(22)、西武・源田壮亮(31)、ヤクルト・村上宗隆(24)、広島・小園海斗(23)、阪神・中野拓夢(27)、ソフトバンク・近藤健介(30)の6人だけ。

 31歳の源田が最年長となり、一軍でまだ10試合22打席にしか立ったことのない広島・田村俊介(20)のように、本当にこれからの若手もいる。「未来投資型」の代表チームだが、今回選出された選手28人のなかに巨人の選手は一人も入っていない。

 球団創設90周年の記念事業の一環として行われる台湾遠征と侍ジャパンの合同練習期間が重なるためだが、

「代表経験のある選手は、オーストラリア戦にまわしても良かったのではないかという声も聞かれます。実際、井端監督は巨人キャンプを視察した際、岡本和真(27)、戸郷翔征(23)、門脇誠(23)の名前を挙げていました」(スポーツ紙記者)

 井端監督が巨人キャンプを視察したのは2月6日だった。前出の関係者によれば、すでに巨人側から「オーストラリア戦辞退」の連絡は受けていたそうだが、キャンプ視察は終始和やかな雰囲気で行われた。とくに時間を割いて多く喋ったのが門脇のこと。これは同日の取材対応でも語っていたが、「どのポジションも守れるし、そういう選手は国際試合では貴重だと思います」と称賛していた。

「井端監督が二遊間は門脇と小園海斗、捕手は埼玉西武の古賀悠斗(24)を中心に考えています。オーストラリア戦で活躍できれば、外野の中心的選手は田村俊介でセンターラインを固めてくるでしょう」(ベテラン記者)

 田村は井端監督が昨秋の広島との強化試合で“一目惚れ”した選手。第一打席のスイングを見て「ただ者ではない」と直感し、今回の選出につながったそうだ。

 26年WBC、28年ロス五輪で中心選手になって欲しい若手を絞り込んでいくという井端監督の構想を考えると、巨人は門脇と戸郷を台湾遠征から外して侍ジャパンに預ける選択もあったのではないだろうか。球団の記念事業も大切だが、井端監督も門脇と小園の二遊間を昨秋のアジアチャンピオンシップに続いてオーストラリア戦でもテストし、今秋のプレミア12につなげたかったはずだ。

井端監督のビジョン

「オーストラリア戦で井端監督は、4人の大学生をプロ選手のなかに放り込んで様子を見るのではなく、各々にアピールしてほしいポイントを伝えてあります」(前出・関係者)

 門脇に代わってショートのスタメン出場も予想される明大・宗山には「守備」、青学大・西川には「長打」、関大・金丸には「制球力」、愛工大・中村には「ストレート勝負」を指示したという。

 井端監督は侍ジャパンを託されるまで、U-12代表チームを指揮していた。小学生に指導、説明する難しさ、特に伝える言葉のチョイスに悩んだ時期もあったそうだが、それが今日の糧になっているのかもしれない。世界大会に出場する以上は、絶対に勝ちたい。しかし、実際にプレーをする少年球児たちには、まだまだこれから先がある。彼らの未来を考えた場合、目先の勝利よりも優先させなければならないことも出てくるだろう。

 しかしWBCや五輪は、優勝を半ば“義務づけられた”大会でもある。勝つことは当たり前とはいえ、そのための前段階が必要になる。プロアマ問わず、若手中心で、短期間で「育てる」――井端監督の胸中には明確なビジョンがある。

「09年の第2回WBCで、中日選手は揃って出場を辞退しました。その理由は前年の北京五輪で事前の説明と異なる選手起用が続いたからです。続投を余儀なくされた救援投手もいれば、本来とは異なるポジションを守らされた選手もいます。この経験が反面教師として、井端監督のチーム編成に影響しているようです」(前出・同)

デイリー新潮編集部